こるこには、さばと行く。

過去の自分に、今のオレかっちょいいと言わせたい日記。

大切な人のために、あなたはどこまで差し出せるか。

即座に命と答えるようなら、あなたの命に価値はない。

 

少し前の私ならば、さばを手に入れるために即座に命と答えた。

自分の命は地を這う虫より、そこらの塵芥よりもはるかに価値がなく

彼の存在は一縷の希望、蜘蛛の糸だった。

それを掴むためなら、何を投げ出しても惜しくはなかった。

 

まず、彼と出会う前の私に生きている意味がなかった。

夢を失った私には目標も目的もなく、守りたいものもなかった。

けれど人間の体を保つために、薄っぺらいプライドが全身を覆っていた。

せめて自分を傷つけないように、これ以上奪われないように。

 

これもまた勘違い甚だしいと思うのだけれど

奪われるのは総じて自分が弱いせいだ。

環境のせいでも他人のせいでもない。

もともと持つ気質が脆弱であったり

知恵や経験による実力に基づく自信がなく、未熟だから。

 

今の私は命を差し出すことを少し躊躇するようになった。

彼を奪われるくらいなら、代わりに命を差し出してもいいと思うのは変わらない。

拷問されたりレイプされたりしたらと思うと、背筋がゾッとするけれど

彼の平穏が守られるならば、それは私にとって幸せなことだ。

 

けれど、私の命は重みをもってしまった。

もう自分勝手に簡単に抛てるほど安くはない。

今の私にはそれだけ彼の心を奪う存在になっている。

私がいなくなれば彼はきっと泣く。

もしかしたら、そこからもう一度立つことができなくなってしまうかもしれない。

それでは困るのだ。

私はこの世の誰よりも彼に一番幸せになってほしいのだから。

 

彼は私を愛してくれた。

彼の愛は自分本位の私から見ると自己犠牲的な愛に見えた。

人の気持ち、空気の流れの察しが良く

深く語らずとも人の気持ちを理解できるような人だ。

その時に人が最も欲する言葉を与えられる貴重な人だ。

人の気持ちがわかりすぎるために傷つきやすい。

でも彼は人が好きなんだと思う。

彼は率先してサポートに回る。

周囲の流れをよくするために。

自分の心が弱いことを知っているから

意識的に前向きな姿勢や思考を取り入れる。

 

私は己の弱さに立ち向かっていく人が好きだ。

他人のせいにせず、自分自身に向き合って、成長しようとする人が好きだ。

 

最初頼りないと侮っていた彼は

徐々に人間的に強く逞しくなっていると感じられる。

最初あんなにおどおどしていた彼はもうどこにもいない。

それを少し寂しく愛おしく思う気持ちもあるけれど

どうやら私は彼を読み間違っていた。

彼は人のために強くなれる人だった。

私はこれからもそんな彼と歩いていきたい。

私にとって恋人であると同時にライバルでもあり

かけがえのない相棒で友人なのだ。

 

そんな大切な彼を私は何度か守れていない。

私がそばにいながら、彼を守れない自分を殺したいくらい腹立たしく思う。

はっきり言って彼は背が低い。私と同じくらいしかない。

外見的に言えば、冴えない人に見えるかもしれない。

でも、そんなこと関係ないくらいに底抜けに優しく懐の広い人なんだ。

通りすがりのバカが汚していい存在ではないんだ。

 

私はいつも咄嗟の行動を躊躇してしまう。

彼に迷惑がかかるから、殴りつけたくなる衝動を抑える。

階段から突き飛ばしてやろうかと暴力的な思考に支配される。

真っ赤な衝動を抑えている間に時間は通り過ぎてしまう。

でも、せめて言い返すことくらいしなきゃだめだ。

私が最も誇るべき愛すべきものを汚されて黙っているような

そんなゴミクズにはなりたくない。

男と掴み合いの喧嘩になったら勝ち目はない。

でも、勝てなくても闘って守らなければいけないものがある。

私は負けを恐れている。

彼の前で無様な格好を晒したくない。

でもそれ以上に彼の傷ついた切なげな顔をもう見たくない。

何一つ悪くない彼を慰めて宥めるようなことを言う

くそダサい私にはもうなりたくない。

どうでもいい他人の言葉なんて流せばいいなんていう

大人の折り合いのつけ方は私は好きじゃない。

いつか母を見殺しにした過去の私も救わなければならない。

 

私は今度こそ大切なものを守るんだ。

絶対に立ち向かうんだ。奪わせたりしないんだ。

 

弱い私はせめて、彼を守るために闘う覚悟を差し出そうと思う。